2008年1月31日

4、伝える技術

 就職活動って

 「僕はこういう人間です」
 「そして僕は君(御社)をこういう人間(企業)だと思ってる」
 「だから僕は君(御社)にこれを与えられる」
 「そして僕は君(御社からこういうものをもらえると思ってる」

 ということを、ひとつは言葉でもって明確に、もうひとつは言外のさまざまな要素で伝えるということから成り立っていると思う。そして利益が一致したと両者が判断すれば合意(契約)が成立する。そして、くどいようだけれどこれと恋愛とは、根本的に似通った構造であると僕は思う。だからこそ僕がこうして書き続ける意味もある。

 「就職活動は恋愛である」でも書いたように、就活はこのようなマッチングシステムなわけだから、「ご縁がなかった」といわれて傷つく必要はない。ただ技術を培うことによってそれをひっくり返すことはできる。必要なのは、相手に伝える技術、そして相手を知る技術。「技術」は先天的なものではないから、努力すれば身につけることができるはずだ。

 話を進める前に、一般的なコミュニケーション能力があるのは大前提となる。相手を思いやる行動ができればOKだと思う。あとは笑顔で、ポジティブな発言・思考ができ、物事をある程度まで論理的に思考でき、会話のキャッチボールができる力があれば十分。要するに話していて「苦痛だな」と思わせないこと。

 これらは一朝一夕で培えるものではなく、習慣化されているか否かがはっきり出るものだ。僕の周りで決定的に足りないと思う人はいないから心配ないけれど、不安なら短い間でも日々意識しておくにこしたことはない。気難しそうな顔をしてしまう人はとにかく笑顔を心がける。これをやるだけでコミュニケーションはだいぶ改善される。僕が今は南米にいる後輩の甲斐孝太郎から教わったいちばん大きなことだ。

 相手に伝える技術とは、こうした表面的な対人関係力を超えたところにある。この目標は「僕はこういう人間です」という語りを納得させること。それには「語りに自分を乗せる」ということが欠かせなくて、そのために前回書いたストーリーの構造化による軸の抽出が必要になってくる。

 いろんな要素を詰め込もうとして軸のブレた語りが多い。話は起伏に富んでいた方が面白いけれど、それを貫く軸はシンプルでないと伝わりにくい。軸というのは、要するに「自分」をぎゅっと閉じ込めたものなんだ。曖昧な「自分」では相手に伝わらない。だから、ちっちゃくして、大切なところをうまく伝える必要がある。

 これは頭のなかでもやもや考えていても意味がない。できるだけ語ったり、文章にしたりしなければ軸が見えてこないし、面白いストーリーにならない。手っ取り早いのが人に語って磨いていくという方法。その過程でストーリーの構造化がなされるし、自分をもっとも伝えやすい話は何か、ということも見えてくるはずだ。

 ただし。就活において語る相手はさまざまで、相手によって必要な語りが変わりもする。だから相手を知る技術を磨くことが大切だ。そうすれば、どんな話をすればいいかも分かってくる。

 就職説明会や相談会でどういうことが行われるのかは知らないが、通り一遍のあたりさわりのない話をすることが多いと聞く。それは不要だとは言わないけれど、きっと心には響いてこない。それだと頭の中での知識にはなっても、熱く語れたり、人生を決めたりするほどの材料にはなりにくいと思う。

 大切なのは自分の心に響かせること。それには生身の人間と語るのがいちばんだと思う。会社案内も読むひとの心を動かそうと作られてはいるが、差別化されてない情報じゃ心は震えない。そういうものを読むことは前提条件として、プラスアルファ、自分から動いてその企業をより深く知ることが大切なんじゃないかな。

 会社案内を読んだり、ホームページを見たり、あるいは会社が産み出しているものをチェックしたり、そういうことで知ることもできる。ただしそこに留まっているうちは、表面的なことしか見えてこない。もちろん学生に企業の実情なんて見えるわけはないのだけれど、それでももう少し踏み込んだやり方があると思う。「知る」ためにはどのように踏み込めばいいのか、それを次で書いてみたい。