2008年1月31日

3、自分を磨くということ

 前回に続いて、就活(と恋愛)の話。

 僕が「磨くこと」について語るのは、初恋にはじまり「磨くこと」を意識的にやってきたから。道のりは果てしないけれど、それでも磨く前よりはだいぶマシになったと思う。以前はそれくらいひどかった。だから、これは就活だけじゃなく、わりと普遍的に通じることだと思って書きます。

 ただ実際のところ僕はもう「磨く」という作業そのものにはこだわっていない。というのも磨くべき方向性のようなものが見えたから。すると意識せずとも磨いていけるし、そのことに自信がもてるんだ。「この方向で磨いていけばいい」という気持ちがあれば、たとえ道の途中で倒れても、立ち上がって歩きはじめる力が湧いてくる。

 「磨くこと」のゴールは歩むべき道を見つけること。そのために、歩んできた道のりを見直すことになる。僕は24になってようやくたどりついたから偉そうには語れない。でも、誰しもが今すぐというわけにはいかない中で、道を見つけるためのヒントになればと思って書く。

 さて、まずひとつめの「自分磨き」について。ビールのたとえでは「おいしくすること」にあたる部分。

 時々「自分探し」の迷宮に入り込んでいる人を見かける。たまにインドやアフリカに行ったり。それは楽しいことだと思う。でも本当の自分なんて実はどこにもいなくて、いま生きているこの自分を元に、そこに何かをくっつけていくこしかできないと僕は思っている。多くの人がそう感じているんじゃないのかな。その意味では「自分創り」と言った方が正確だと思う。

 ただ就活生はこれから内定をもらうまでの短い間に、あたらしく何かをくっつけるのは難しい。だから今あるもので勝負していくしかない。どこか遠くで自分探しもできないし、新しく何かをもってきて「自分創り」をするのも難しい。そうなると今のこの不格好な自分を整えるために「磨く」ということが必要になってくる。

 その時に大切なのは、自分が経験してきたことを意味づけること、すなわちストーリー化だと思う。ストーリーにするためには、前後の脈絡をつけ、その行動の意味を紡ぎだす必要がある。そうしてはじめて、人に語って伝わるものになるから。

 僕は初恋をした。ふられて落ち込んだ。努力したが、再びふられて落ち込んだ。100kmも離れたので、仕方ないから新たな地で次の恋を探した。悔しかった分だけ努力した。そのために日々挑戦してきた。いろいろあったけれど、5年目にしてようやく初恋に心から感謝できるようになった。

 これが僕の第一幕後半の大まかなストーリーだ。これを3分で語ることもできるし、数百の短いストーリーを散りばめて1日中語ることもできる。単純化するために初恋をベースにした努力話にしているけれど、実際には初恋は「きっかけ」という位置づけであって、心の中ではもっと大切にしているストーリーがたくさんある。

 「たくさんあって、どこを切り取ればいいのか分からない」と誰しもが言う。僕は思いつくだけ切り取ってストーリー化したらいいと思う。それが自分を磨く力にもなる。自分の人生を振り返れば、失敗も、成功も、すべて意味づけることはできる。個人的には、しないのはもったいないと思う。意味づけた方が、より「おいしく」なるのだから。

 どこからはじめたっていい。受験のことだっていいし、僕みたいに恋だっていい。バイトのことだって、サークルのことだっていいだろう。ひとつだけアドバイスをすると、ストーリーには「他者」を絡ませた方がいいと思う。自分ひとりで頑張ったというのも美談ではあるけれど、社会では役立ちにくいだろうし、他人が聞いてて面白くはない。

 ストーリー化する際、就活においては、「他者」に加えて「軸」を意識した方がいいと思う。小説でいうなら「主題」みたいなものだ。酒を飲みながら語るためのストーリーなら軸はなくてもいいけれど、それでもあった方が「なるほど」と興味を持ってもらえることが多い。

 軸は強みだけじゃない。「いかに自分が物事を成し遂げてきたか」を語ろうとする人がいるけれど、強みばかりの意味づけはアンバランスだと思う。小説の話なんて、だいたいが弱みや失敗の話だよね。その方が人間味があって面白い。ただし弱みばかりでバッドエンドではどうしようもないので、ハッピーエンドへ向けて話を収束させることになる。

 そうして強みと弱みの「軸」を見つけることができたら、それを他のストーリーにも当てはめてみる。違った角度から見たストーリーはいきいきとしてくる。もしそうならなかったら、そこには違う「軸」があるということ。それを繰り返すことで、いちばん大事な「軸」とその周りにある小さな「軸」とが見えてくる。

 小さな軸と大きな軸、短いストーリーと、それをつなぐ大きなストーリー。さまざまなストーリーを構造化してつながりあるひとつの世界を作り、それを貫く自分なりの軸を抽出することができれば、自分に関する受け答えで困ることはなくなるし、その時々に応じて必要な話を持ち出すことができる。

 これはとにかくしつこく繰り返す必要がある。1日くらいじゃ終わらない。こうした「反省」とか「省察」とか言われることは、習慣化することがいちばん大切だ。習慣化されないうちは、努力は結果として出てこない。習慣になってしまえば、自然な楽しみになってくる。僕が人と語ったり酒を飲んだりするのが好きなのは、こういう理由もあるんだと思う。

 それはそうと。 こうして自分を磨くことができたら、就活で語る準備は整ったということ。でもここに至るまでには長い時間がかかるし、一人でできる作業じゃない。だからたくさんの人と語ることが大切になってくる。また、就活で語る準備ができたとしても、誰(どこの企業)にむけて、どのように語ればいいのかという問題もある。

 そこについて触れるために、次は二つ目の磨くこと、「伝える技術・知る技術」について書いてみたい。