2010年4月10日

生き延びた奇人と出逢う

「子どもの頃から、周囲と同じではなかった。みんなが夢中になる話題と合わせてはいたが、本当に愛するものは別のところにあった。意識の中で感じられる質感「クオリア」の問題に目覚め、取り組みはじめてからは、脳科学の通常の研究スタイルとからさえ距離を置かざるを得なかった。」
(茂木健一郎『文明の星時間』p237)

茂木健一郎というとモジャモジャ頭で「クオリア」とか「アハ体験!」と叫び、よく分からないけど頭が良いらしい「変なおっさん」というのが一般的なイメージだろう。4億円の税をうっかり申告漏れするところも「変さ」を際だたせる。

最近、久しぶりに彼の著書をいくつか続けて読んだ。それで感じたのは、多くの本を出しテレビにも頻繁に出演している割に、彼の真意は伝わるべき人に伝わっていないのではないかということ。「脳」に興味を持つ4,50の主婦層がコアなファンらしいが、彼女たちに占有させておくのはもったいない。

茂木健一郎は多くの人が想像するような「奇人」で正しいのだろう。だが、この国では奇人でありながら生き延びるのはかなり難しい。奇人であることに悩み続け、その葛藤を学び続けることで克服した男。僕らはそうしたロールモデルを必要しているのではないか。

「はたして、私たち日本人の生き方は普遍性を持ちうるのか。日本の中に、価値あふれるなにかはあるのだろうか。そんなことをずっと考えながら生きてきた。本書で展開してきた議論は、日本を疑い、それでも日本人であることを離れられない私という人間の「魂の探究(ソウルサーチング)」を背景にしている。私は、なんとか日本の中に未来への希望の「種火」を見つけたいといつも思ってきたのである。」
(同『ひらめきの導火線』p153)

種火はここにある。でも、まだほとんどの人に気付かれていない。放っておけば自然と消えてしまう「種火」。僕はそれをどこから見ても一目で分かるような「燃え盛る炎」にしたい。それがあれば、そこにいる人すべてが暖かくなるような炎を起こしたい。そのために、僕らは薪をくべ続ける。