2008年11月4日

灯が消える時

 すこし前に「青年社長」を読み終えた。和民を立ち上げた渡邉美樹の日記を元にした小説だ。彼自身の評価は別れるのだろうが、詳しく知らない僕は差し控える。ただ、彼とほぼ同じ年齢で起業している僕としては、彼の凄まじい生き方に触発されるところは多かった。

 僕は飲食業の世界をほとんど知らない。身近なところでは、うるとらカフェ、norari:kurari、QUNEと、5年で早稲田に3店舗のカフェを立ち上げた通称「ボス」がいるが、「まぁ、3時間睡眠でいつも仕事場に立ってたね」と、さらりと言ってのけるので、その辛さを実感することはない。

 「看板の灯りが消えた白札屋は悲しい。灯が消えた瞬間、洋子がむせび泣いた。俺も、涙を堪えられなかった。 十月一日の開店から四ヶ月足らず。よくもったものだ。俺は開店二日目で、今日あることを予期した。若気の至りで済まされるとは思わない。つぼ八二店の成功で驕り高ぶってしまったのだ。会社設立二年十か月目の挫折である。」 (高杉良『青年社長』(上) P308)

 仕事帰りの馬場歩きの最中、またもラーメン屋が潰れているのを見かけた。店のレベルが高いこの街は、入れ替わりも激しい。行ってみて「二回目はないね」という店の多くは半年もしないうちに潰れていく。

 でも、そこには確かな夢があったのだ。その店の主人を支える家族や、親戚や、友人たちが応援する日々があったのだ。そういう夢が現れては消え、現れては消えていくのが、きっと僕らの住む世界なのだろう。

 世の中には素敵なストーリーがある分だけ、哀しいストーリーが存在するのだと思うと、日増しに冷たくなってくる風に吹かれながら、僕はちょっとやりきれない気持ちになった。

 ただ。

 それと同時に渡邉美樹のこと、そして僕自身のことも考えた。彼ほど頭を使い、努力をしても、失敗することはある。それは即ち、いつか僕にも訪れるということだ。念のため付け加えておくが、僕のビジネスの調子は悪くない。それでも、夢破れる時はやってくるのだ。

 でも、だからといって人生が終わるわけではない。夢が潰えたその瞬間も、また次の夢に向かって歩き出せるように生きていたい。夢が加速度的に膨らんでいく今だからこそ、そのことを忘れずにやっていきたいと思う。