2008年11月13日

タコの住まう世界

 友成真一教授にお会いした。

 京大院を卒業後、官僚として25年間勤務。その後早稲田大学大学院の教授を務めている。「自分経営ゼミ」をはじめとする授業は学生に絶大な人気を誇り、様々な取り組みはメディアにも頻繁に取り上げられている。最近では早稲田大学社会連携研究所所長も務める。先月は第3回ニッポン新事業創出大賞・支援部門・最優秀賞として経済産業大臣賞を受賞。

 ・・・というような「社会的・形式的な結果」は生きる上での本質ではない。人間は、タコが入るような厚い「つぼ」の中で身を守り、快適に暮らしていこうとする。そして多くの人(とりわけ官僚のようなエリート)はそればかりを求める。だが、生きる上での真実はそこにはなく、その厚い壁の内側に住まう「素ダコ」こそが持っている、と。それが友成教授の語る「タコ理論」だ。

 とはいえ。

 僕らは素ダコのまま生きていけるほど強くはない。若ければ特にそうだ。

 僕がそのことを尋ねると、「僕がタコつぼに興味を持たないでいられるのは、長らくタコつぼの世界で生きてきて、その構造を知っているからだ」という答えが返ってきた。なるほど。そうした認識の上で彼は、あまりに多くの人が「タコつぼ」の世界でばかり勝負しようとするのを見かねて、人間が生きる真実、すなわち「素ダコ」の大切さを語り続けているのだろう。

 「タコつぼ」の不毛さを語ることができるのは、「タコつぼ」を持っている人間の特権だ。僕の身近な話で言えば、学歴というものが「タコつぼ」の最たるものだと思う。実際、あまりに多くの受験生(と、それを育てた親)が学歴を幸福とほとんど同じレベルに置いているのは見るに耐えない。だから僕は「学歴なんて幸せとは関係ない」と語ることがある。でも、僕がそう語って意味を持つのは学歴を有しているからに過ぎない。

 学歴をはじめとする「タコつぼ」の不毛さ。それはおそらく紀元前の昔から世界中の至るところで語られてきたし、語る側にとっては紛うことなき真実ではある。でも、それは語られる側にとって本当の救いになるのだろうか?たとえば僕は、志望校に受からなかった受験生と語り合う時、彼らが悔し涙と共に吐き出す言葉を受け止めながら、そのことを自問自答してきた。

 そして、僕はある時ひとつの結論に行き着いた。学歴には意味がある。でも、それは幸福に直結するわけではない。幸福を学歴のような「外の基準」に委ねたら、自分の人生の梶を自分から手放すようなものだ。大切なのは、幸福のカタチを自分で描いていくこと。「外の基準」だけに囚われないこと。悔しいなら、それをバネにすればいい。苦悩は幸福のカタチを描く絶好の材料だ。

 幸福のカタチの輪郭を描けたら、それを探しにまた走り出せばいい。誰だって求めるものがそのまま手に入るわけじゃない。少なくとも、僕は手に入らなかったものがたくさんあるよ。でも、誰だって幸福のカタチは描きなおせる。僕自身、涙を流しながら何度も幸福のカタチを描きなおしてきた。

 友成教授は当然そんなこと百も承知で、タコ理論に基づいてこう語っていた。「『素ダコ』が最重要。ただ、「タコつぼ」づくりのプロフェッショナルになることも必要。大切なのは、「素ダコ」と「タコつぼ」という構造があるということを忘れずに悩みながら生きていくことだ」と自分の「タコ理論」を締めくくった。最後には、「そういう見方もできるよ、ということ。理論に真実はないからね」と、持ち前のユーモアを添えることも忘れなかった。学生に人気があるのも頷ける。

 話の途中、「素ダコ」の成長についてダイアモンドの研磨を例えに出して、「人間は人間にしか磨けない」と言っていた。折りしも昼間に原さんから「人は練磨によりて仁となる」という道元の言葉を聞いていたから、「人が磨かれていく」ということへのイメージを持つことができた。大学という場所は、あるいはビジネスというフィールドは、(自分次第だが)己を磨くには絶好の場所だ。

 僕はこれから「タコつぼ」を固めていくだろう。厚く、厚く、塗り重ねていくだろう。友成教授の言葉を借りれば、「タコつぼづくりのプロフェッショナル」になる。そうなることは半ば確信している。でも、それと同時に、その「タコつぼ」の中に住んでいるのは弱々しい一匹の「素ダコ」に過ぎない。強い「タコつぼ」として、そして弱い「素ダコ」として、どちらの自己も見失わないように戦い続けていく。


 【BOOK】 上に述べた「タコ理論」が正しいかどうかは心もとないので、ちゃんと知りたい人は『問題は「タコつぼ」ではなく「タコ」だった!? 「自分経営」入門』を手にとって読んでください。

1 Comment:

さっちん さんのコメント...

友成先生の授業をとっております。
本をまだ読んでいませんが、
今月中にブログにレビューを書こうと思っております★

「人間は人間にしか磨けない」
という言葉を読み、その通りだなぁと思いました。